すでにNISAの制度があるのに、なぜ「積立NISA(つみたてNISA)」という新しい制度が生まれたのだろうか? その背景を知ることは賢い投資家になる近道を教えてくれている。大切なことは、運用の世界では商品の知識だけでなく、税制や金融機関の儲けの仕組みなど構造的な理解をしていくことが賢い投資家になるための第一歩ということだ。
※2024年からの「新NISA」をどこで始めるべきかお悩みの方は、【2023年】新NISAおすすめ口座5選【証券会社・銀行を比較】もあわせてご覧ください。
積立NISA(つみたてNISA)は、若い世代の資産形成を応援する制度
金融庁は今までのNISA制度の効果検証をしている。金融庁は他の役所とちがい、オープンマインドで自らの政策評価をし、しかも公にしているところが立派だ。それによると、今までのNISA制度は20代、30代、40代の資産形成層にあまり活用されていない。活用しているのは60代が一番多く、次は70代。即ち、お金を持っている人たちが税の優遇を活用して資産を益々増やしているということだ。このことは、当初から予想されたことだが、NISAが証券優遇税制廃止の見返りだったことを考えると当然と思う。
そういう現実はあるものの、一方で国が考えていることは若年層の資産形成を応援することだ。なぜなら、若い人たちの年金はどんどん受け取り額が減っていくことが確実だからだ。若い人たちは自分で頑張って欲しい! そのための支援を税金の優遇でやるからね、というのが国の考えだ。だから、従来のNISAとは別の資産形成層に使われるような制度として、積立NISAを作りたかったということだろう。
積立NISA(つみたてNISA)では、なぜ「積立投資」に限定したのか
積立投資とは毎月定額を投資していくこと。金融庁の資料によると既存のNISA制度で積立投資をした人は90.6万件。全体が1030万件のNISA口座数だから少数派だ。
積立の特色は少額をコツコツと投資ができるということや、長期投資になるので資産を増やす確率が圧倒的に高くなるということだ。
そこで積立NISAは、資産形成層に向けた仕組みとして積立投資限定の制度にしたと推測される。20年間の毎月積立ならば、投資のタイミングを考える必要もなく、価格が下がっているときは口数がたくさん買えて却って喜べる。「ドルコスト平均法」を制度として活用しようということだ。
積立投資に限定したことの意味は大きく、iDeCo(イデコ)も積立に意味があるのだが、その効果をみんなが体感するようになれば良いと思う。積立は知らず知らずのうちに貯まり殖えていくことが魅力なのだ。
従来型NISAでは70%の人が投資信託を選択している。株と違って、投資信託を選択した人の中では、売却した人が9.7%しかいなかったようで、利益が出たら直ぐに売ってしまうという傾向が少ない。もともと、長期投資で資産を大きく増やして欲しいという制度なので、株よりは投資信託ということになったのだろう。ただし、どの投資信託でも良いということではなく、長期・分散投資に向いている投資信託等に限定するという。このことも、踏み込んだ形になっているが、日本の投資信託は海外から比べても本数が多く、一本当たりの資産が少ない(=効率が悪い)という問題を解決する機会になる可能性がある。各運用会社もその運用会社としての良心に従って自社の長期的な代表商品を育てていく努力をし始めると思う。
積立NISA(つみたてNISA)の問題は、販売会社が直ぐには儲からないこと
販売会社にとってみると、毎月2万円で年間24万円の積立投資のお客さんを集めるより、2000万円で投資信託を一度に買ってくれる(退職金や高齢者のお金)人を相手にした方が、効率が良く収益も高くなる。おまけに、投信積立は積立のためのシステム投資もしなくてはならない。そして何よりも、往往にして積立投資の投資信託は販売会社の手数料収入が少ないものが多くなりがちだ。だから、積立NISAに対する販売会社の取り組みにも濃淡が出て来ることは明らかだと思う。
投信の積立では販売会社と運用会社とお客の中で一番メリットがあるのは誰か? 答えはお客なのだ。
販売会社が積極的に売りたがらない商品は、販売会社の儲けが少ないという商品であり、逆にお客にとっては有利な商品の場合もある。運用の世界では関係者の儲けの構造的な理解をすることが賢い投資家になる大切な要素だ。積立NISAを真剣にやる販売会社や運用会社は目先の利益より長期的な戦略を持つ良い会社であるということも言える可能性が高い。いずれにせよ、未来のある若い人は自分の未来のために積立NISAはやらないと損をする。
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