
4人に1人が生き残る年齢は、2050年には男性で93歳、女性は98歳になります。老後資金は100歳まで考えておくべき時代です。その最大の支えは、終身でもらえる公的年金ですが、あたかも「あてにならないもの」のように思われているのは非常に残念です。実は、年金額は自分の選択次第でかなり大きく変化します。公的年金のフル活用策を知って実践することが、安心老後につながります。
年金は人生の4大リスクに備えるお得な総合保険

まず知っておきたいのが、年金は人生の4大リスクに総合的に備えるお得な保険だということです。
長生きリスクに備える「老齢年金」だけでなく、一家の大黒柱の死亡に備える「遺族年金」、病気やケガで働けなくなることに備える「障害年金」が組み合わされています。また、インフレが起きればある程度年金額も上げてくれる仕組みなので、インフレリスクにも備えられます。
老齢年金だけでも、払った保険料に対し今の50歳なら2.8倍、30歳でも約2.3倍が平均で受給できます。国民年金の財源の半分が税金、厚生年金の保険料の半分が事業主負担だからこそ、こうしたお得な仕組みになっているのです。最大限活用すべきです。
実質的な年金額は所得代替率の低下ほど減らない

本書の第1章「30分でわかる公的年金」では、公的年金の仕組みと財政状態のエッセンスが30分ずつでスッキリわかります。
受給世代に比べた現役世代の人口比率は確かに減りますが、だからといって年金は破綻しません。人口構造の変化はずいぶん前から「わかっていること」であり、「わかっていること」に対しては対応が可能だからです。
年金は保険なので、数学的な計算に基づいて、人口変化に耐えられるように設計されています。具体的には次の4点です。
- 1
- 2017年まで実施された保険料の引き上げ
- 2
- 基礎年金の財源の税金比率を半分に引き上げ
- 3
- 現役世代の減少に合わせて毎年の支払額を自動調整するマクロ経済スライドの導入
- 4
- 積立金の活用
将来の所得代替率(現役世代の手取り額に対する年金額の比率)は2~3割低下しますが、実は実質的な年金額は多くの経済前提で、数十年後でも横ばいかむしろやや微増で、購買力(モノを買う力)はあまり落ちない可能性が高いのです(このあたりは詳しい説明が必要なので本書の第1章第2節をお読みください)。
ただし、今後もマクロ経済スライドの強化などで年金財政をより強固にする改革はもちろん不可欠です。
「繰り下げ受給」や「106万円の壁超え」などで受給額増加を

本書の最大のメッセージは、年金額は所与のものではなく、自分の選択次第でかなり変わるということです。第2章は、人生100年時代に向けたフル活用へのノウハウです。
例えば「繰り下げ受給」。原則は65歳受給開始ですが、70歳まで繰り下げると42%も受給額が増えます。このことはだんだん知られてきましたが、実際には状況次第で詳細な検討が必要です。
- 1
- 年下妻がいる場合は厚生年金を繰り下げると年40万円弱の加給年金が消えてしまうので、それを避けたければ基礎年金だけ繰り下げる
- 2
- 5年繰り下げで42%増えるのはあくまで額面で、税金や社会保険料の増加で多くの場合手取りは3割強にとどまる
- 3
- 厚生年金のある妻の場合、夫婦の年収差によっては繰り下げが無駄になることもある
- 4
- 住民税が非課税にとどまる範囲を意識して判断
――などが検討事項です。そうした点を知ったうえで、それでもできれば積極的に繰り下げによる増額を検討すべきです。
また、パート主婦で501人以上の会社に勤めていると、年収106万円超で社会保険の扶養をはずれて、自分で年金・健康保険料を払うことになります。これを「106万円の壁」と称して、避けるよう勧める報道もあります。
しかし、年金保険料はただ払うだけでなく、将来それに見合った厚生年金を受け取れます。長生きする女性の場合、現役時代の保険料負担よりも、普通に生きた場合にもらえる厚生年金の合計額が通常は上回ります。
同様のことが定年後の男性にも言えます。60歳以降、短時間でバイト勤務で働くより、厚生年金加入で働くほうが、保険料負担のデメリットに比べた厚生年金の増加のメリットが長寿時代には多くなります。
本書の第2章では、「繰り下げ受給」「106万円の壁超え」の詳しい解説のほか、遺族年金、障害年金をきちんと受給するための知識や、離婚分割の注意点、自営業者が年金額を増やせる付加年金、国民年金基金、小規模企業共済の仕組みも説明しています。
イデコ・NISAを使った自助年金も大切

こうして公的年金をフル活用したうえで、個人型・企業型の確定拠出年金(DC)や、少額投資非課税制度(NISA)などを組み合わせ、自助努力で老後資金を作る必要性が高まっています。
資産運用というと「何がいつ上がるか当てる」ことだと思っている人が多いですが、それは必ずしも必要ありません。節税制度を使いながら「長期・分散・低コスト」という簡単なルールに従って運用していけば、堅実に資産を増やしていくことは決して難しくないのです。第3章ではそうした自助年金づくりの運用ノウハウを、豊富なデータに基づいて解説しました。
公的年金の重要性をよく知ってフル活用すること、そして節税制度をフル活用した運用で自助年金を少しでも増やすこと――こうした対策をなるべく早く総合的に実施しなければ、これだけの長寿時代を乗り切れません。本書が、そうした支えになることを期待しています。
『著者が語る「本のツボ」』は、投資未経験者・投資経験者にとって有益な書籍を紹介する事で、皆様の投資ライフが充実したものとなる事を目的としたコーナーです。