ここ最近、認知症に備える保険や特約が3つ登場し、ちょっとしたブームになっています。それぞれ、どのような特徴があるのか、どのような人向きかを探ってみました。
「認知症保険」が登場してきた2つの理由
最近登場してきた認知症に備える保険は、2016年3月発売の太陽生命「ひまわり認知症治療保険」、同年4月発売の朝日生命の「あんしん介護 認知症保険」、2017年7月発売のメットライフ生命「終身認知症診断一時金特約」です(この3商品を総称して「認知症保険」と呼ぶことにします)。太陽生命はいち早く認知症保険を発売し、2017年5月2日時点で「ひまわり認知症治療保険」と「認知症治療保険」を合わせた契約件数は20万件を超えました。
認知症保険というジャンルは新しいと感じるかもしれませんが、認知症はそもそも民間保険会社の介護保険でもカバーされているものです。
民間の介護保険は、(1)日常生活動作について介護が必要になった場合、(2)認知症と診断され、見当識障害(自分が置かれている状況を認識できなくなる障害)等がある場合、(3)公的介護保険と連動して給付される場合、と介護を幅広く保障しています。認知症保険は、(2)の保障を取り出して保険にしたようなものです。
ここにきて認知症保険が登場してきた理由は2つあると考えられます。1つは、長寿社会になったことで、死亡したときの保障より生きている間の生存保障分野のニーズが高いことです。もう1つは、長寿社会と関係していますが、これからは認知症で多額のお金が必要になり、社会的なニーズが高まっていることです。

日本は急速に高齢化が進み、認知症患者が増えています。厚生労働省のデータによると、65歳以上の高齢者で認知症を患っている人は2012年で462万人、高齢者の7人に1人が認知症患者でした。これが、2025年には約700万人になると推測されています。実に高齢者の5人に1人が認知症という、未知の世界が間近に迫っています。
認知症の介護費用は、そうではない場合の介護費用と比べて2倍以上かかるといいます。そのことを実体験として知っている人や、体験者から聞くなどで危機感を持っている人たちに「認知症保険」という商品はインパクトがあったのでしょう。
3つの認知症保険の最大の違いは「給付の条件」
では、3つの認知症保険の特徴は、どのようなものでしょうか?

太陽生命の「ひまわり認知症治療保険」は、認知症の保障をつけた引受基準緩和型(※)の医療保険です。認知症の保障は一時金300万円(契約後1年間は半額)で、他に入院一時金、手術給付金、放射線治療給付金、骨折治療給付金の保障が盛り込まれています。
※「引受基準緩和型」とは、持病など健康上の理由で保険に加入できなかった人でも加入しやすくなっている保険のタイプをいいます。ただし、保険契約から一定期間、保障が削減されたり、通常の保険に比べ保険料が割増されている場合があります。
朝日生命の「あんしん介護 認知症保険」は、介護保険「あんしん介護」をバージョンアップし、介護のなかでも負担の重い認知症を保障するために作られた保険です。一時金と年金があり、どちらか一方、または両方を選ぶことができます。健康な人向け(標準体)の保険です。
メットライフ生命の「終身認知症診断一時金特約」は、健康な人向け(標準体)の終身医療保険「Flexi S(フレキシィ エス)」、終身医療保険(引受基準緩和型)「Flexi Gold S(フレキシィ ゴールド エス)」につけられる特約で、一時金タイプです。
これら認知症保険で気をつけてほしい点は、すべての認知症が保障の対象ではないことです。保障の対象となる認知症は、アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性などの器質性認知症です。朝日生命は、さらに、日常生活自立度基準のランクⅢ以上と判定された場合を保障の対象としています。器質性認知症は、認知症全体の80~85%を占めるといいます。
3商品の相違点は、下表を参照してください。
太陽生命 ひまわり認知症治療保険 |
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保険 or 特約? | 保険 |
保険料の区分 | 引受基準緩和型 |
保険期間 | 10年・終身 |
給付金の支払われ方 | 一時金 |
保障される認知症 | 器質性認知症 |
給付の条件 | 器質性認知症になり、かつ、意識障害のない状態において見当識障害があると診断確定され、その状態が180日継続したとき |
待期期間(保障の対象にならない期間) | なし |
朝日生命 あんしん介護 認知症保険 |
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保険 or 特約? | 保険 |
保険料の区分 | 標準体 |
保険期間 | 定期・終身 |
給付金の支払われ方 | 年金、一時金 |
保障される認知症 | 所定の認知症(器質性認知症と診断確定)+日常生活自立度判定基準のランクⅢ以上と判定 |
給付の条件 | 要介護1以上、かつ、所定の認知症(上記)と認定されたとき |
待期期間(保障の対象にならない期間) | なし |
メットライフ生命 終身認知症診断一時金特約 |
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保険 or 特約? | 特約。終身医療保険「Flexi S(フレキシィ エス)」、または、終身医療保険(引受基準緩和型)「Flexi Gold S(フレキシィ ゴールド エス)」につけられる |
保険料の区分 | 「Flexi S」は標準体、「Flexi Gold S」は引受基準緩和型 |
保険期間 | 終身 |
給付金の支払われ方 | 一時金 |
保障される認知症 | 所定の認知症 |
給付の条件 | 診断確定されたとき |
待期期間(保障の対象にならない期間) | 180日 |
なかでも最大の違いは、給付の条件です。メットライフ生命は所定の認知症と診断確定されるだけで支払われますが、太陽生命と朝日生命は上表のように、診断されただけでは支払われません。
認知症保険の活用法は?

3商品の違いから、どんな人向きか、その活用法を考えてみました。認知症保険は一時金か年金か、またはその両方で受け取ります。一時金は認知症の治療費や介護の初期にかかる費用への備え、年金は継続的にかかる費用への備えの位置づけです。認知症というピンポイントの保障だけで一時金と年金の両方の備えをすることはあまりないので、認知症の保障が必要だと考える人はどちらか一方でいいでしょう。
健康なうちに加入するなら、標準体の朝日生命の「あんしん介護 認知症保険」を選ぶか、メットライフ生命の「Flexi S」に特約でつけます。医療保障も必要なら、後者を選びます。すでに持病があって標準体の保険に加入できない人は、引受基準緩和型の太陽生命の「ひまわり認知症治療保険」を選ぶか、メットライフ生命の「Flexi Gold S」に特約でつけます。
保険料は、保障内容が違い過ぎるため、どの保険が割安かの判断はできません。ただひとつ言えるのは、引受基準緩和型は標準体と比べて割高です。
なお、認知症だけでなく、認知症を含む介護を幅広く保障する民間の介護保険で備えるという考え方もあります。いずれにしても、払える(払ってもいい)保険料の範囲内で備えることが大切です。
今回、執筆いただいたのは
ファイナンシャルプランナー・小川千尋さん
ファイナンシャルプランナー(AFP)、エディター&ライター、子育て・教育資金プランナー、終活コンサルタント、ハッピーエンディングプランナー、整理収納アドバイザー
1994年FP資格取得。資格取得後、独立系FPとしてマネー誌や生命保険のムック、ウェブサイトなどの執筆・監修・セミナー講師、個人相談などで活動中。マネーに関することは、生まれる前から亡くなった後まで幅広くカバー。なかでも、生命保険、老後・高齢期の暮らしに詳しい。